カテゴリー: 専門記事・研究情報

離婚前後の心理相談はなぜ必要か――国の支援制度と自治体の課題

離婚は法律上の手続きだけでは終わらない

 離婚や別居は、夫婦関係の変化であると同時に、親子関係や家族の生活環境に大きな変化をもたらす出来事です。

 離婚に際しては、親権、養育費、親子交流、財産分与など、法律上・経済上の問題への対応が必要になります。しかし、当事者が直面する困難は、それだけではありません。

 夫婦間の対立、子どもとの別居、親子交流の中断、将来への不安、孤独感、怒り、喪失感など、心理的な問題が複雑に絡み合うことがあります。

 こうした心理的困難が十分に理解されず、適切な支援につながらない場合、離婚後も長期にわたって苦痛や葛藤が続く可能性があります。

 離婚前後の支援には、法律相談や経済的支援に加えて、心理専門職による相談を利用できる仕組みが必要です。

国は離婚前後のカウンセリング支援を制度に位置づけている

 こども家庭庁は「離婚前後家庭支援事業」を通じて、離婚前後の家庭への支援を進めています。

 2025年度には、従来の支援を再編・拡充するなかで、「離婚前後のカウンセリング支援」が明確に位置づけられました。

 具体的には、心理担当職員の配置やオンラインカウンセリングなどが支援内容として示されています。

 また、2025年4月10日の参議院法務委員会においても、政府参考人は、離婚前後のカウンセリング支援を新たに事業の枠組みに盛り込んだことを説明しています。

 これは、離婚前後の家庭に対する心理的支援の必要性が、国の施策においても認識されていることを示しています。

 一方、この制度は、すべての自治体で同じ支援が提供されることを保証するものではありません。

 こども家庭庁も、自治体によって実施する支援内容が異なり、事業を実施していない場合には利用できないことがあると案内しています。

 したがって、制度上の位置づけができたことと、必要とする人が実際に心理相談を利用できることは、区別して考える必要があります。

心理専門職による支援が果たす役割

 離婚前後の心理相談には、単に当事者の悩みを聞くだけでなく、複数の役割が期待されます。

当事者の心理的な安定を支える

 離婚・別居に伴う喪失感や不安、怒り、抑うつなどに対して、当事者が自身の状況を整理し、生活を立て直すことを支援します。

 深刻な心理的危機が認められる場合には、医療機関や地域の精神保健・福祉サービスと連携することも重要です。

子どもの心理的負担を理解する

 子どもは、父母の対立のなかで、どちらか一方への忠誠を求められているように感じたり、自分の気持ちを自由に表現できなくなったりする場合があります。

 心理専門職には、子どもの年齢や発達、家庭環境、これまでの親子関係などを踏まえ、子どもの気持ちや行動を丁寧に理解する役割が期待されます。

離婚後の親子関係を支える

 離婚によって夫婦関係が終了しても、親子関係そのものが終了するわけではありません。

 しかし、父母間の対立や生活環境の変化などによって、親子交流が難しくなったり、長期間にわたって関係が断絶したりすることがあります。

 心理専門職は、子どもの意思や安全を尊重しながら、親子関係の維持や再構築の可能性を検討する役割を担うことができます。

 ただし、暴力や虐待などの問題がある場合には、安全確保と慎重なアセスメントが優先されます。親子交流や関係修復を一律に促すことが適切とは限りません。

自治体における支援体制の整備が課題

 国の制度に心理カウンセリング支援が位置づけられたことは重要な前進です。

 しかし、制度が存在するだけでは、支援を必要とする人にサービスが届くとは限りません。

 今後は、少なくとも次のような点を明らかにする必要があります。

  • 心理専門職による離婚前後の相談を実施している自治体は、どの程度あるのか。
  • 相談を担当する専門職には、どのような資格や経験が求められているのか。
  • 同居親・別居親の双方が利用できる仕組みになっているのか。
  • 相談の費用負担、利用回数、オンライン対応などはどうなっているのか。
  • 相談者が継続的な支援や医療・福祉サービスを必要とする場合、どのような連携体制があるのか。

 こうした実態を把握することが、制度の普及と改善に向けた出発点になります。

 また、地域による支援格差を縮小するためには、自治体と心理専門職、法律専門職、医療・福祉機関、民間支援団体などが協力する体制が求められます。

将来的には、親子関係の再構築と自殺予防も視野に

 離婚前後の心理相談は、離婚手続きの前後だけに限定されるべきものではないと考えます。

 例えば、離婚から長い年月が経過した後も、親子関係の断絶に苦しむ人がいます。子どもが成人している場合でも、親子双方にとって、関係の再構築や心理的な整理が重要な課題となることがあります。

 また、離婚・別居後の心理的危機、とりわけ男性の自殺リスクについては、海外の研究でも重要な課題として指摘されています。

 心理相談には、こうした深刻な孤立や心理的危機を早期に把握し、必要な支援につなぐ役割も期待されます。

 これらは、現在の離婚前後家庭支援事業だけで十分に対応できるとは限らず、今後の支援制度の発展に向けた課題です。

リユニオンが目指すもの

 一般社団法人リユニオンは、離婚・別居後の親子関係や家族の心理的問題に対して、心理臨床の専門性に基づく支援を行うとともに、必要な支援が社会のなかで広く利用できる仕組みづくりを目指しています。

 当面の課題として、国がすでに制度に位置づけている「離婚前後のカウンセリング支援」が、自治体においてどの程度実施されているのか、その実態を把握することが重要だと考えています。

 そして将来的には、離婚後に関係が断絶した親子の再構築支援や、離婚後の親の孤立・自殺予防を含め、より包括的な心理支援体制へと発展させていく必要があると考えています。

 離婚によって夫婦の関係が変わっても、親と子、それぞれの人生は続いていきます。

 その過程で生じる心理的困難に対して、専門的な支援を必要なときに利用できる社会を目指すことが、リユニオンの重要な活動課題です。


関連ページ

主な参考資料

  1. こども家庭庁「離婚前後家庭支援事業について」
    https://www.cfa.go.jp/policies/hitori-oya/9116d150
  2. こども家庭庁「令和7年度予算案・離婚前後家庭支援事業」
    https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0a870592-1814-4b21-bf56-16f06080c594/7701d868/20250107_policies_hitori-oya_72.pdf
  3. こども家庭庁「離婚前後家庭支援事業の実施について」https://www.cfa.go.jp/policies/hitori-oya/9116d150
  4. 参議院法務委員会会議録(令和7年4月10日)
    https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=121715206X00520250410
  5. 法務省「父母の離婚後等の子の養育に関する民法等の見直し」
    https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357